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No.0470「雫の片」
「やあ、久しぶり」「おー、奇遇だねぇ、元気だったか?」
ふとそんな声が聞こえた…でも辺りに人の気配は無い、ただ優しく降り注ぐ雨だけ。
「誰?」
その挨拶は私に向けられたものではなかったと思うけど、なんとなく気になった。
「そう言えばあいつはどうした?」
「あぁ、あいつは俺とは反対側の山すそを下ったからなぁ…しばらくは会えないな」
「そうか…あ、おまえの弟子になったってゆーあいつは?」
「ん?さっきまで隣にいたんだけど、俺のほうが先に降りたからなぁ…そろそろ…」
「おーい…」
「噂をすれば…」
「おーい!おー!おーあー!ちょっとー!」
「…」
「…」
「落ちてったなぁ…」
「あぁ…相変わらずあいつは直滑降なやつだ…」
「こうやって途中で止まらないと話も出来ないってのにな…」
耳を澄ますと、その会話以外にも他の会話も雨に混ざって聞こえていた。でもやはり周囲には誰もいなかった。
「そろそろだな…」
「ん、そうか…」
「今度はいつ会えるかねぇ?」
「冬がいいよな、ゆっくりしていけるし、夏は戻りが早くて慌しいし…」
「それがいいな、それじゃ、また」
「おう、元気でな」
別れの挨拶のようなのが聞こえたと思った。
そして、大きな葉っぱに乗った雫が、名残惜しそうに地面へと落ちていったのだった。
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