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No.508「Come on Piano」

No.508[Come on Piano] 敬「あれ?」
音羽サンのライブに来ていた俺は、ホールの隅に立つ男性の姿を発見した。
大越「…あ?」
敬「やっぱ大越さんでしたか」
大越「竹中君だ、いやいや…」
何がいやいやなのか判らないけど…
敬「音羽サンのライブを?」
大越「うん、この間とは逆だね♪」
しかし、こんなトコに突っ立ってないで、席の方へと進めば良いモノを…
敬「俺もこれからなんですけど、同席いかがですか?」
大越「…あ…うーん…」
その何かを考えている仕草は何でしょう?
俺、警戒されてますか!?
店員「いらっしゃいませ」
敬「…あ」
店員「お二人ですか?前のボック…」
敬「?」
は?なんか急に止まったぞ?
店員「おおおおおおお、おまちおおおお!」

”ばたばたばた…”

敬「あい?」
おーい…接客~…と、言おうとしたんだけど…
隣の大越サンが額に汗を浮かべながら苦笑いしていた。
敬「…(ぽん)…」
大越「なかなかね…入りづらいんですよ…」
本人にその気は無いのかもしれないが…なんせ有名人だ、店側の方が焦る。
(とは言っても、反応が過剰のような気もしますが…)
敬「でも、突っ立ったままってのも何ですよね?」
大越「そうなんだけど…」
と、言いながらその目はステージ上で演奏する音羽サンに向けられていた。
それは穏やかなようで、また何か別の気持ちを表しているような…
尤も、そう勘ぐってしまうのは、最近の音羽サンの行動からなのだけど…
大越「見つかると怖い…」
敬「…お、おーいぇー…」
そうかもしれない…
音羽サンのコトだ、客席にこの方の姿を発見すれば、即壇上へ連行…
俺の心配なんか以前に、もっと重大な問題があったのを忘れていた。

”ぱっ”

大越「あ?」
敬「は?」
突然、スポットを浴びてしまった…
響「敬、じゃま」
敬「は、はいっ!」
慌ててその円の外へ…
大越「…あぁ…」
満身にスポットを浴びる大越サンだった。
目から汗が流れ出ているのは、スポットが眩しい、あるいは熱いから…
(に、しといてあげます…)
響「これはこれは、珍しい方が♪」
マイクを通し、含み笑いが混ざった声がホールに響く…
そして一斉に客の視線が…
響「だから、敬、じゃま」
敬「す、すみません!」
また円の中に片足を突っ込んでいた…
大越「…あ゛ぁ゛…」
眩しくて暑いスポットを浴びる大越サンは笑顔だ♪
響「大越誠一、ピアノ…」
1秒程沈黙したホールだったが…

”ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち”

次の瞬間、大きな拍手が響き渡る。
敬「さ…流石…」
こんな風に光が当たるだけで、それが誰なのか判ってもらえるのって…
その光が通路沿いに移動し始めた。
敬「…あれ?」
大越「…動け…ってコトなんだろうな…」
余程、眩しく熱いに違いない…滝のような涙を流して喜んでおられる…
(…もしかしたら違うかもしれないけど…)
円の中心から外れていく大越サン、円は一度止まり、また動き出した。
敬「…」
大越「なんだろうなぁ…うんうん…」
敬「…は?」
大越「…さよなら…竹中君…」
敬「…あい?」
その中心位置を維持するように歩きだした大越サン…
それはまるで、牽引ビームに引かれ、入港する宇宙船…
あるいは、宇宙人に捕らわれる牛のような…
(後者のほうが説得力あるな…)
大越「…すみません…ビールだけください…」
牽引ビームに引っ張られながら、途中、大越サンは店員からビールを受け取っていた。
(覚悟を決めたんだと思う…)
敬「…ナム…」
響「えーっと、先日レコーディングで一緒して…」
大越「…あははは…」
響「こないだのライブでは、俺がステージに上がらされてしまったので…」
大越「…あははは…」
ステージまでわずか数メートルなのに、その間に色々解説されている。
きっとその距離は、大越サンにとって、相当な長さに感じているに違いない。
受け取ったビールも、ちょっと後ろを向いた瞬間に、全部呑み干したようだ…

”ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち”

そして2人のスポットが、ステージ上で1つになった。
響「よ、こないだは♪」
大越「おつかれでした…」
響「そんな訳で、1曲頼むわ」
大越「い、いきなりだなぁ」
響「いいよね?店長?」
首が落ちるんじゃないか?って位の勢いで頷いてらっしゃいますな…
響「(ノーギャラな…)」
ボソっと大越に耳打ちで告げたようだったが…
わざわざマイクを口に近付けて耳打ちするから…
客「(どっ)」
微妙な表情の大越サン…
でも、上着を脱ぎつつ…袖を捲りつつ…
顔はさっきとは違う、本当の笑顔に変わっていた。
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