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No.468「その女性の名」

No.468[その女性の名] 気が付くと目の前にあの女性(ひと)が立っていた。
「久しぶり」
と、俺。
「お久しぶり」
と、この女性。
よく知っている人、以前は近くによくいてくれた人。
「忘れてたでしょ?」
「忘れてた訳ではないけど、思い出す機会が少なかった」
ただ目の前に立っているだけのこの女性の顔は今も昔も変わっていない。
「君から来るとは意外だな」
「そう?いつも近くにいるんだけどな」
俺の手元の覗き込む、そして俺の前には真っ白なクロッキー帳…
「何してるの?」
「見ての通り、絵のネタ考えている」
考えていると言えば聞こえはいいが、実際のところは真っ白な紙を前に腕を組んでいるだけかもしれない。
「で、何か思いついたの?」
「それも見ての通りだ」
このクロッキー帳も既に数十冊、相変わらずの落描きやら何やらが、ただただ描き連ねてあるだけ…
そしてふと思い出す…
「そう言えば、最近君を描いてなかったな」
「ほら、やっぱり忘れてる」
過去の数十冊の中に、この女性の絵はいくつも描かれていた…描かなくなったのは何時位の頃からだっただろうか?
そして、何回も描いているはずなのに、一度も仕上がった事も無かった…
そうだよな…毎回姿を変えていたんだっけ、この女性…
「一度位まともに描いてみてよ」
「簡単に言うがなぁ…」
時間の経過と共に少しずつ俺の記憶は薄れ、頭の中にあるこの女性の映像も薄くなりつつあった…
そう言えば、目の前に立っているのも、表情も判るのに…描く事が出来ない…何かが見えない…何がそうさせているのか?
薄れかけている記憶の中にあっても、鮮明に残るイメージの中にこの女性は立っている。
それは現実のイメージだったのか、仮想のイメージだったかは…それもやはり時間の経過で忘れた。
「君は変わらないですな…」
「そう?」
「恐らくあの時のままだと思う」
「でもうまく思い出せないでいるでしょ?」
「残念ながら…」
時間…そうか、随分な月日が経過しているんだったなぁ…
初めてこの女性と出会ってから…そう、多分30年位経過しているのかもしれない。
記憶に残る出会いの時、この女性は白いテラスに立ち、その周りを多くの木々や草花が囲み、そして…
「名前も忘れちゃってたりしない?」
「それは覚えている」
そう、この女性の名は…
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