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No.0480「お父さんのお友達」

No.0480[お父さんのお友達]私はお父さんの大きな笛の練習を見に来ていた。
ここはお父さんの練習場所の1つ、港と大きな橋の見える小高いところにある公園。
他にも別の公園や、ちょっと離れた河原でも練習していたけど、ここが一番お家から近かった。
「はは、留奈も吹いてみたいかい?」
お父さんは私の背丈と同じ位大きな笛を吹いていた。
私が持とうとしても、指が届かない位大きかった。
「私じゃ持てないよぉ、先っぽが地面に着いちゃうもん」
「大きくなったら持てるようになるよな?」
「でもまだ先になっちゃいそう…」
「そうだねぇ…中学位になると持ちやすくなるのかな?」
「そしたら教えてね」
ベンチに腰掛けたお父さんは、私と大きな笛を一緒に膝の上に乗せていた。

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静かな公園、遠くに船の行き来が、ゆっくりとした時の流れを物語っていた。
そんな中、ふとした音に私は目覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「お父さんが練習始めたかな…?」
でも私はまだお父さんの膝の上だったし、そのお父さんも私を乗せたまま眠っていた。
そして同じベンチの端には私よりずっと年上のお姉ちゃんが口笛を吹きながら港を見ていた。
「あら?起こしちゃったかな?」
じっと見つめていた私にお姉ちゃんは気が付いた。
「…あ、えと、こんにちわ…」
「こんにちわ、留奈ちゃん」
「え?お姉ちゃん、なんで私の名前知ってるの?」
私は初めて会った筈なのに、お姉ちゃんは私の名前を知っていた。
「そうね、お話するのは初めてかな?私はお父さんのお友達なの」
ニコっと微笑む顔、私は初めて会ったと思ったけど、どこかで会った事があるようにも感じられた。
「お友達なんだ…でもお父さん寝ちゃってる…」
私が揺すり起こそうとしたけど、お姉ちゃんはそれを優しく止めた。
「気持ちよく寝ているみたいだから、起こさないでおきましょうね」
天気のいい休日の昼下がり、私だっていつの間にか眠ってた位だ、お父さんだってこの陽気に誘われれば眠ってしまうだろう。
「口笛吹いてた…」
「え?あ、うん、うまくないけどね」
「お姉ちゃんもお父さんと同じように笛を吹くの?」
「うーん、吹きはしないんだけど、楽器はやってるよ」
「いいなぁ、私はまだ何も出来ないんだ…」
「演奏会が近いから、お父さんも練習に精が入っているみたいね」
そう言えばお父さんは、JAZZのビッグバンドに入っていると聞いていた。
ビッグバンドと言っても、好きなご近所さんが集まって作ったアマチュアバンド…その位しか知らないけど、たまに演奏会を開いたりしていた。
このお姉ちゃんも同じバンドのメンバなのかもしれない。
「あ、去年お母さんと聴きに行ったよ」
「えぇ、知ってるわ、私も舞台から留奈ちゃん見てたもの」
「お姉ちゃんも出てたんだ」
「うん、お父さんの近くでね」
どこかで会ったような気がしたのはそのせいだったのだろう。
「留奈ちゃんもテナー吹きたいの?」
「うん、お父さんと同じ楽器がしたいな、でも留奈はまだ小さいから持てないの」
「地面に着いちゃう?」
「…うん、でも大きくなったら大丈夫だよ」
その後も私とお姉ちゃんは色々な話をしていた。
だいぶ前からお父さんの知り合いだったらしく、私の知らない事もよく知っていたし、楽器についても詳しかった。
いつしか時間も経過し、今まで上から当たっていたお日様の光も公園の植え込みの木々に見え隠れするようになっていた。
「もうこんな時間か…」
「お父さん起きなかった…」
余程気持がいいのか、私がどんなに悪戯してもお父さんは起きなかった。
「涎…出てる?」
「みたい…」
二人してお父さんの顔を覗き込みながらクスクス笑っていた。
「私もそろそろ帰らないとな…」
「結局お父さん起きなかったね…」
「いいよ、また会えるし、留奈ちゃんも元気でね」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」

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公園からの帰り道、私はお父さんの背中にいた。
「って、聞いてる?」
「うん、聞いてるけど…誰かなぁ…」
私はさっき会ったお姉ちゃんの話をお父さんにしていた。
「舞台にいたよ?」
「思い出せないなぁ…もしかして裏方さんかなぁ…」
「裏方さん?」
「音響設備の準備したり、舞台の面倒みたり…演奏はしないけど、大切なお手伝いさん達の事だよ」
そう言えば演奏会の時も、実際には演奏していないのに、舞台のあちこちを動き回ったり、何本もの線を引っ張ったりしていた人がいた。
もしかすると、演奏していた人数よりも多かったかもしれない…
「そんなに奇麗なお姉ちゃんと一緒に演奏してたなら、お父さんも忘れないだろうからな♪」
「そうだね」
「名前は聞かなかったの?」
「うん、聞いてなかった」
「そか、名前が判れば何の担当さんか位は判るんだけどね…」
「でも、私の名前知ってたよ?」
「うーん、じゃ、やっぱりどっかで会ってるんだなぁ…」
街並みが夕日の赤に染まる中、私とお父さんの1つになった影が、通りに長く伸びていた。
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