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No.510「桜咲くのら…」

No.510[桜咲くのら…] 季節は春。
”春の宵”とは何かで聞いたコトがあるけど、今は夜じゃないし、そもそも俺の場合”酔い”だろう。
”宵”と言っても、別に花見で酒盛りした…訳じゃない…
「ずるー」
「風邪?」
「知ってるくせに…」
いぢわるなんだから、この方は…
その何気に含みを持った口元が全てを物語っているじゃないですかい?
そう、酔ってると言うよりは、鼻炎の薬でラリってる…それが正解。
「お花見なのに♪」
体調はそれを許さない。
「こんだけ天気がいいと…辛い…」
桜も花粉を飛ばすだろうか?
何気に強い風が、時折、桜の花びらを宙に泳がし、ついでに俺の顔にブチ当たる。
これはなった者にしか判らない苦労である…その内、チミもコップの水が溢れるのですぞ?
「花びらは大きいからお鼻に入らないよ♪」
「そいつぁありがてぇ…」
ちっとも有り難くないが…
今年は去年より花粉症の発症が早かった。
そのせいか、桜の方も1週間程早く咲きまくっている感じだ。何を慌ててるのか?と問い合わせしたくなる。
”ちきゅうおんだんか”によって、これがあと数年繰り返されるコトとなり、日本もオーストラリアと同じように夏のサンタを祝うようになるのだろう…
「こういう時はやっぱ花見酒だ…」
「お薬飲んでるのに?」
「酒の無い桜なんぞ、○リープを入れないコーヒーです」
「え?」
知りませんわな、あなたのお歳では…
「これ、ク○ープかなぁ…」
そう言って、手にしているコーヒー屋の背の高いカップを眺めておる…
「それはさっき低脂肪でシロップを少なめとお願いしたモノでは?」
「そうだったそうだった♪」
コーヒー片手の花見ってアリなのだろうか?なんかムードじゃない気がする…
それに、このコーヒー1杯で、缶ビール2本相当な訳でして…それが2名分、缶ビール4本換算…タバコ3箱換算…
「シクシク…」
「あれ?」
「何故お酒にしなかったのでしょう?」
この方も俺同様に、既にお酒が召しあがれるお歳である。
「昼からお酒?」
「昼だからいいんじゃないですかい?」
昼からお酒が呑めるのは、正月と花見の時期位しかない。
「コーヒー屋さんにお酒は売って無かったよ?」
「これこれ…」
別にそこら辺のコンビニでもいい訳で…
こういう思考が導き出されるのは、ある意味感心してしまいますがな…
「あとでしっかり呑みに行こうよ♪」
「は?」
その”しっかり”ってどういう意味ざんしょ?
確かにお歳的にはOKですが…確かこの方…見た目に因らず…
(強い…)
”ぶわ”
「きゃ」
ふいに強く吹いた風が、大量の花びらを宙へ誘う。
(ついでにスカートの先も…)
「…見た?」
「…は…」
その赤い顔は? 「…は、は…」
そのちょっと潤んだ瞳は? 「…は、へ…」

「ぶえくしょ!」
”ぶわ”
「きゃ」
そんな余裕なんて無かった…
とうてい入らんだろうと思われた花びらは、風によって見事なまでに俺の鼻の中に押し込まれ…
「くしょ!くしょ!くしょ!く…」
「あ~あ…」
「しょん!」
さっきまでのチミの赤ら顔は俺に感染り、瞳ウルウルまで頂いて…
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