ArtWorks Library
No.0459「毎年来る客」
いままでとは違う風が私の顔を撫でる。「くしゅん!」
思わず出てしまったくしゃみ、冷たい風が暖かい風へと変わった気がした。
「う~、ティッシュ、ティッシュ~」
バッグからポケットティッシュを取り出そうとした時、何かが私の肩に乗った。
「来たよー」
「あ…やっぱり…」
私の肩の上にちょこんと乗った小さな子、私はこの子を知っている。そう、毎年私に春の訪れを知らせてくれる子。
「やっぱりはひどい」
ちょっとむくれる。
「今の風、そうかなぁ~って思ったのよ」
「そ、今年もこの風で来たよん」
「春ねぇ…」
「春だから来るんだってば」
私の肩の上、頭の上をぺたぺたと触ってくる。流石に目元や鼻の辺りは、ちょっと危ないんだけど…
「他の子達は?」
「みんな元気元気、今年は風がいいからね~」
この子と同じような小さな子達が、冬の季節の終わりと春の季節の訪れを皆に知らせて回る。もう何年も見かけた、春の子供達。
「しかもはりきってるぞ~」
「別にはりきらなくてもいいような気も…」
「そんな訳にはいかないよん、私達ががんばらないと…」
「わかった、わかった…だから、顔を叩くのはやめて~」
毎年この時期の恒例行事。
「あ、また風がきた、それじゃね」
「うん、行ってらっしゃい」
こうして次の風と共に、あの子はまた飛んで行った。
こうやって毎年、同じような時期、同じような場所で会う。恒例行事だった…そう去年までは…。
………
……
…
新たな年、季節が確実に変化を見せ始めようとしていた時期、いままでとは違う風が私の顔を撫でる。
「…」
ほんの少し暖かくなったような風、でもあの子が私の目の前に現れる事は無かった。
「くしゃみ…出ないな…」
私が見えなくなってしまっただけなのかもしれない、あの子達は今でも私の周囲を、私の頬を叩いて、気づかせようとしているのかもしれない…
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