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No.0489「目先のそこにあるものは…」
何やら俺に当たる日差しを遮るモノを感じた。河原の芝生に寝転び、青い冬の空を見上げながら…
「ぐー…」
眠ってた俺だった。
瞼の表に感じていた光の赤が黒くなったり戻ったり…何かが目の前を行き来している?
だが眠るのに支障も無く、そのまままた深い眠りへと戻ろうとした時、何かが俺の鼻に触れた。
(何だ?虫にしては大きい?)
(草が触れてるにしてはくすぐったくない…)
「…」
(…何か息苦しいんですけど…)
そう言えば以前、留奈の膝枕の時もこんなだったか…
だが、今、後頭部に感じるのは薄くなった芝生と、それを通して伝わる地面の温度だけ…
”もぞ”
「…」
”もぞぞぞぞ”
あまりの違和感に耐え切れなくなった俺は、ゆっくりと目を開けてみる…
「…」
「…」
目が合った。
「…」
「よぉ」
「…」
「相変わらず眠そうだなぁ…」
「…」
「…」
「うわぁぁぁん!」
「わ!な、何だ!?」
何故か理由は判らないが、突如として悲しくなってしまった。
「え、えぐえぐ…」
「おまえなぁ…」
俺に当たる日差しを遮ったもの…
そして俺を悲しみのドン底に落とした主は…
「う、う…お、音羽サンだよぉ…」
「あのなぁ…おまえ、人を下から覗っておきながら、泣き出すか?」
「うぅ…だ、だってぇ…」
って、自分でも理由はよく判らないのだけど…
「こういう時は普通、ありがとうございました、とか、ごちそうさまでした、だろ?」
何にありがとうでごちそうさまなんだ?
いや、俺を襲った悲しみもそこに原因が!?
「いつもはジーンズ穿いてるのにぃ~(泣)」
「別に俺がどんな格好したって構わんだろ?」
「えぐえぐ」
回顧?回帰…いや、この場合怪奇か?
「あ、敬さーん♪」
遠くから別の声が聞こえてきた。
「あ、音羽さんだー♪」
「よ、留奈」
「あれ?敬さん、お鼻が赤いですね?風邪ですか?」
すみません、泣いてました…
「なぁ、留奈…敬ってヒドイんだぜ…」
「え?どうしたんですか?」
そういいながら留奈に寄ると、耳元でヒソヒソ話。
「…」
「…」
最初の内はニコニコしながら聞いていたようだったが…
「…」
「!?」
「…」
「(汗)」
あ、なんか反応が変った…
「…」
「(泣)」
顔は笑ったままなのに、だんだん赤面し、その目元からはポロポロと涙が…
「って、何をどー説明してんですかー!」
「な?」
「…あ…あ、あ・は・は・は・」
うわぁ、完全に引き攣ってるよ…笑いながら…
「うぅ…お、俺の人としての評価値が~…」
もしも目盛りがあったなら、針はマイナス方向に振れてるのかもしれない。
「あ、でもね、音羽さん…」
「ん?何だ?」
俺をかばってくれますか?留奈サン留奈サマ…
「敬さんは毛糸がお好きみたいなので…」
「…」
「…」
「あれ?」
音羽サンが固まっていた、大変珍しい光景である。
「なぁ、敬…」
「はい、なんざんしょ?」
「留奈ってこんなにボケ突っ込み上手かったか?」
「天然ではありますが…上手いかどうかは…」
「はうっ!」
そもそも毛糸云々の話、留奈本人は知らないハズなのでは?
もしかして、今はお姉ちゃんモードに移行中?
周囲にはしばらくの沈黙が流れ…
”ぷわーん”
やがて鉄橋を渡る電車の警笛で全員が我に返った。
「…じゃ、じゃぁ練習始めるか…」
「あ、あはは…そうですね~♪」
「毛糸かぁ…」
って、そこで何ボソっと呟いてますか!?音羽サン!?
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