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No.525「ちょっと先…」

No.525[ちょっと先…] 「ちょっと待ちなさいってば…」
俺の先を行く彼女…
いつもより足が早くないか?

走っている訳でもなく…
早歩きな訳でもなく…

いつもの通り、よたよたとあちこち寄り道しながら歩いてるように見えるのに…

「え?呼んだ?」
呼んでましたよ、さっきから大声で…
って、だから、そこでクルクル回るなっ!

「ちょっと待てぃ!」
「何?」
「いつからそんなに足が早くなった?」
いつもなら、ちょっと手を伸ばし、その無防備な後ろ髪を…
「あ…」
頭を押さ、防御のポーズを…
「…また…?」
「(引っ張りたいけど)引っ張りませんっ!!」
人聞きの悪い…また?なんて…お約束と言ってくれっ!

けど、その一言で安心したかのように、また俺の前を…

だから早いってば…

「…い…」
「い?」
「いつからそんな小技を…!?」
「失礼だなぁ…」
地面の砂が盛り上がる位、大げさに足を止め、こっちを振り向き、いたずらな笑顔を返す…
よし!その後頭部を捕まえるなら今っ!

「…あ…」
「あ?」

伸びない俺の手…

いや…伸ばせない…?
そんな姿が滑稽なのか、クスクスと笑いながら…
「…その子…」
「え?」
彼女の指差す先は、俺が抱きかかえていた猫…
そうか、手を伸ばせなかったのは、こいつを抱えていたからだ…
「ご飯、気を付けてね?」
突然の(祈るような)心配顔…

そうだった、こいつはご飯に気を付けないと、いつもお腹を壊すんだっけ…

「…知ってますよ、そんなコト…」
「大丈夫?」
「一緒に飼ってたんだからな」
「あはは、そうだよね♪」
またいつもの笑顔に戻り、前へと進んでい彼女…

でも、その足はさっきより更に早くなっていて…
「だから、待てとゆーとるにっ!」
猫に邪魔されて伸ばせない手…
体を思いっきり前傾姿勢…むしろ走っていたかもしれない…
追いかけようとすればする程、体にかかる何かの抵抗が大きくなっていく…

達者なのは口だけだ…

「俺に世話を任せますか?」
「…ちょっと不安あるけど…」
即、今にも泣きそうな不安顔をされる…本当、ご正直なコトで…

「…でも…」
「…」

「お願いしたよ?」


却下され…いや、選択肢はそれしか無い…


「あぁ…」

「ほら、みんな待ってるからさ♪」
俺の周囲には沢山の人たちの姿があった…


「…あのさ…」
「ん?」

「ちょっとだけ、先を進んでいるだけだから…」
「…」
「君は慌てず…ゆっくりで…ね?」


猫は俺の手から逃れ、彼女に寄ろうと必死だった…
俺も後ろ髪を捕まえてやろうとしてたけど…
正反対に、俺の手は猫を抱きしめていた…
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